身体、からだ、カラダ(アイドルのダイエットと痩せた話)

 
アイドルグループのメンバーが“ダイエット”企画の目標体重を維持できず活動休止になる、という内容の動画を見た。
 
頑張ります、頑張れ、頑張る、を繰り返し、最終的に「もっと(体重を)下げなきゃ」と呟いて、水にも手をつけない女性の姿。
デブ。チャーシュー。ちぎりパン。ブタ。
徹頭徹尾、罵ること自体を楽しんでいるとしか思えないマネージャー男性の姿。“約束”と称して、体脂肪率や筋肉量を無視して目標体重の数値をどんどん下げていく。何人ものスタッフの前で、同時に”ダイエット”をしている女性と体重の減少加減を比べられる。
 
最後の測定で、彼女の体重は一度更新した自身の過去の最低値をわずかに上回った。その数字、400g。 
泣き崩れ、髪を振り乱し、「頑張ります」を繰り返す彼女を映して、動画は終わった。 
 
 
 
動画を見て、泣いた。
苛立ちと、恐怖と、そして400gに泣く感覚がわかってしまったこと。
 
 
 
動画はハフポストに取り上げられ、拡散された。(現在は削除されている。)
 
twitterで当該記事がシェアされているのをいくつか見た。アイドルグループの成り立ちやメンバーの立ち位置がわからないから批判するんだ、とか、批判記事を書いた研究者に対するひどくミソジナスでエイジズムに溢れたコメントもあった。眉間にしわを寄せながらスクロールしていくうち、「(男性は)もっとぽっちゃりしたのが好みなのに」という趣旨の発言をいくつか見かけた。
「中年男性の私はややぽっちゃりの方が好き」
「何が女性の魅力かも人それぞれ」
 
その「魅力」は誰にとっての魅力ですか?それ以前にその「人」って、その身体の所有者である女性自身を指してないですよね。そこでは、「女性の魅力」とやらを感じる主体は、彼女自身では、ない。
 
twitterに呟かれた言葉は、アイドルとマネージャーの間にあった「自分の容姿の価値、自分自身の価値を他者が決める」構造から何一つ抜け出していない。
常に他者にジャッジされる身体。
(アイドルという、まなざしに晒されることが前提の立場の人たちに限って言えば当然のこと?それゆえに雑言を吐かれて追い込まれていいと、私は思わない)
 
この動画を見るしばらく前に、別のアイドルの人が、摂食障害を理由に活動を休止したことを知った。ロシアのフィギュアスケーターが拒食症を理由に現役を引退したニュースも見かけた。
 
 
 
私はというと、9月の頭から末にかけて、体重が5kg減った。運動や食事制限のせいではなくて、おそらく薬の副作用。その薬も、先週、しびれの副作用が強くなりすぎて、処方中止になった。
私は処方を止められるのが嫌だった。本当に嫌だった。せっかく痩せたのに。常にむくんでいた指もほっそりしたのに。しびれを感じている限り、私は痩せていけたのに。
 
わかっている。
身体は適度な運動による筋肉の保持が望ましく、体脂肪率は適正値、身体の機能を止めてはならない。わかっている。“ダイエット”は、根本的には、過激に数値を減らすという意味ではない。わかっている。トイレの前に仁王立ちになってから前屈し、腹筋に力を入れれば胃袋の内容物が逆流してくる状態が、好ましくないことなど、わかっている。
 
他者は私の中にいた。動画に涙し怒る“正しい”私と、薬で痩せることに一喜一憂する私。マネージャーの私。毎晩体重計に乗る私。街中のショーウィンドウに映る猫背のキメラ。
 
 
ハフポストの記事はLadies Be Openというシリーズの一部だった。いわく「女性のカラダはデリケートで、一人ひとりがみんな違う。だからこそ、その声を形にしたい。」というコンセプトで、ハイブランドが“痩せすぎモデル”の採用をやめた話や、様々な ダイエットに関連する記事がまとめられている。
 
そこはかとない気持ちの悪さを感じた。
カラダ、というカタカナ表記は何を覆っているんだろう。
特設サイトの冒頭には、下腹部にあてた両手でハートマークを形作っているモデルの写真。痩せた腹。内性器の示唆。“女性”、結局そこですか。
 
そして“カラダ”コンシャスな記事の下に、記事に見せかけた広告が表示される。
 
「新婚のタレントが-12kg!」
「20代に間違えられる51歳」
 
広告問題は、他サイトでもいつも見られる、例えば「性暴力関連の記事に性暴力エピソードの漫画の広告」等と全く同じ。
“Be open”と迫りくる記事を読み終わると共に、“でもやっぱり痩せてて若く見えるのがいいよね?”と、広告。
 
 
胃袋と内性器を、この肉体から解放してくれ。そしてその前に、私自身のものになってくれ。肉体よ。