2024年4月上旬の日記

・仕事帰り、歩道にソメイヨシノの花が落ちていた。花弁が揃っている。鳥がついばんで蜜を食べたあとだ。帰宅してから桜開花のニュースを見た。鳥たちはめざとい。

・通勤経路の公園に、大量の人が花見に…というか理由はなんでもいいのかもしれない、とにかく人々が大挙してやってくる。公園前はテーマパークの行列の様相。通勤中に花見客の滞留に巻き込まれて立ち往生しながら、引っ越しを決意した。

・初めてヒバリのさえずりを認識した。大きな声で長時間鳴き続けていた。すごい。かっこいい。

苔むした木の幹に貼り付いたたくさんの桜の花びら。重なった部分は濃い桜色で、濡れた部分は透き通っている。

開花から数日後、強い風雨に散った花びらが幹に貼り付いていた

・新しい手話教室へ通い始めた。正直私には難しい。レベル分けがあまりされておらず、かつ常連だというクラスメイトの感じを見ても、この先ついていけるか不安だ。帰路、久しぶりに会う知り合いと食事をする。これからたまに会いに行くつもり。

・新しい床屋に行った。髪を切られている間は逃げられないから、相手が差別的な話を振ってこないか身構える。

・ちょっとずつ性別変更の手続きを進める。「長男」と書かれた戸籍謄本を見て、誰だよ…と思う。最近は、日常生活で女性扱いされることは、まじで、ない。

・数人に「痩せた」と言われた。腹は立たなかった。

代謝が上がったのか異様に暑い。

・人前で頑張りすぎることをやめられないなら、誰とも会わなきゃいいと思うし、そうしたいし、実際行動抑制的になっている。同時に、引きこもっていた母を思い出して苦しい。

・観たもの:阿波根昌鴻、深瀬昌久

・作った料理:サバ缶スパイスカレー、トマトソース、そら豆・ホタルイカ・新じゃがのソテーなど。あと、根芋という千葉県柏市の地場野菜を初めて買った。発芽した里芋をおがくずで包んで育てるらしく、ひょろっと色白。アク抜きして、おひたしと味噌汁にする。癖がなく食感も楽しい…と思ってすぐに、ひどくかぶれて食べるのをやめた。短い逢瀬だった。でも知らない野菜は楽しいので、また何か見付けたら食べてみようと思う。

2024年3月下旬の日記

・念願かなってヒスイカズラの花を見た。鳥のくちばしか鉤爪のような花が集まって花序を形成している。鉤爪が地面に落ちると、ポトン、ポトンと弾む音がする。散るというよりも落ちてくる。珍しい翡翠色の成り立ちについての新しい研究結果が興味深かったんだけど、どこで読んだのか、記事を見失った。

・公園に高齢の人たちが集まっていた。ベンチや花壇のふちに鈴なりになって、切り株に腰掛けている人もいる。近くで三波春夫生誕100周年コンサートがあるらしかった。またしても風が強い日で、誰か転んでしまうんじゃないかと心配になる。無自覚のうちに強風がトラウマになっている。

・スーツを着て写真を撮ってもらった。

・親知らずを抜いた。医者が歯へのあふれる思いを語り続ける。こちらはタオルで視界を塞がれ口に器具を突っ込まれている。にもかかわらず、医者は手を止めずに「わかりますよね?」とか聞いてくるからアガアガ答える。最後に「年齢の割に骨が柔らかい!2mmも動いた!」「すごく縫いやすい口だ!」と褒められた。知らないタイプの褒めだ。残った1本は大きな病院に行く必要がある。

・きょうだいに会った。頭と口が唸りを上げて回転している。こういう人だった。

・いま仕事で関わっている分野がどうしても好きになれない。

・臨時で入った現場、十数人のメンバー全員が男性で、知り合いも頼れる人もいないし居心地が悪かった。

・口角を上げると口の脇に皺が寄るようになった。嫌じゃない。

・久しぶりに絵を描いた。

・病院も裁判所も役所も混んでいて、まだ諸々の手続きが完了していない。

・なんとなく試しに、死ぬことを具体的に考えてみた。思い浮かべること自体はできるが精度と熱意が下がっている。希死念慮うつ病が考えさせているって言い方があるけど、確かに抑うつに手助けされていたのだと思う。ずっと感じている強い不安は、死そのものとは関係がない気がする。Netflixの「ハンナ・ギャズビーのジェンダーにモノ申す」(原題 Gender Agenda)でMx.Dahlia Bellが言っていた、トランスヘイトと死後の話を反芻している。

・以前ガザに送ったe-simが、いったんアクティベートされたあと使われず期限切れになっていた。更新されなくなった死者数。マスメディアが、イスラエルハマスの対立構造で記事を載せている。今更? 頭が焼ける。

スマホマクロレンズを持ち歩いて、草、朝露、花、布、土、手当たり次第に撮っている。

 

草むらの写真。細い葉の上に丸い水滴が乗っていて、水滴には周囲の葉が映り込んでいる。水滴が視線の高さにくるように撮影した写真。

 

・観たもの:安井仲治、アニッシュ・カプーア/宮脇檀、カンパニーデラシネラ、中原卓馬。

・作ったもの:ゆで豚、そら豆ごはん、アーモンドクッキーほかいろいろ。去年漬けた梅ハーブオイルが便利。

日記(戸籍の性別の取扱いの変更、ほか)

・2月中旬〜3月中旬の日記。いろいろなことがあった。なのになのか、だからなのか、気持ちが上滑りしてふわふわしている。

・申立て用の診断書のために婦人科を受診した。医者が繰り返しホモフォビックなことを言う。我慢ならず注意する。謝られる。いらんことも言ってしまい、病院を出てから反省する。

・家裁に申立て。窓口で用件を尋ねられ「性別変更です」と言うと「性別取扱変更ですね」と言い直される。

・風の強い日の通勤中、目の前で人が転倒して救急車を呼んだ。近所に住んでいるという人が手伝ってくれた。

・友達とちょっとだけ会ってしゃべった。応援している。

・家裁に行き面談。キモい。

・面談翌日、長く関わっていたプロジェクトの打ち上げ。酒は飲まなかった。順番にあいさつする的な流れで、酔った人に「彼女は」と名指される。ただでさえ人前が嫌で逃げたかったのに急にぶち込まれて大混乱しつつ、精一杯空気を読んでしゃべった。受けた。わあい。ちょっと泣いた。そのあとも何? ということがあって、ずっと何? だった。

・自分の姿が映り込んだ映像を見た。以前みたいに目を背けたくならなかった。手術してよかった。ついでに担当者として名前も公開された。改名してよかった。

・性別変更が通った。自分の場所ではないレーンを走り、ゴールテープを切った。望んでやまなかった「死んでも大丈夫な状態」を通り越してしまったかもしれない。後悔とも違う。どこだここは。

・でも事務手続きマラソンを終えたら、しれっと転職しようかなとも思う。

・過去いち上手に夕飯ができた。新じゃがいものごはん、春の豆3種を蒸したもの、鶏むね肉のソテー、ミネストローネスープ。豆は火を通したらすぐに食べること。包丁を使うのがド下手。

・遠方住まいの人と長電話した。遠くにいて、関係がないから話せることってある。私には老いが身近ではない。話を聞いて想像するしかない。私にできることはそれぐらいしかない。

・仕事中に警察から着信。先日転倒した人が亡くなったらしい。死亡診断書のために必要だと言われて、当時の状況を伝える。電話を切り、しばらくしてから仕事に戻ってしっかり納品した。

・いくつかの美術展、ギャラリー、取り壊しの決まっている古い建造物などをみる。

・『ガザとは何か』と『小山さんノート』を読む。『ダンジョン飯』を借りて読む。アニメも見ている。

・殺すな。やめろ。

・疲れた。

・3月11日。

 

どんよりした空を背景にした満開の桜を、ごく近い距離で見上げて撮った写真。桜は雨粒で濡れている。

オオカンザクラ

 

日記(不調、料理、犬)

・映画「M3GAN」を観た。友人とPrime Videoで同時視聴。噂に違わぬゲイムービーだと思った。ちょうど視聴の数日前に「M3GAN 2.0」の製作が発表されていて、日本公開は2025年末ぐらいか。でも続編とかって、ああでもないこうでもないと予想してるときが一番楽しかったりする。

・日常生活で男性扱いされるようになって、ふと自分の状態がゲイに「なっている」ことに気づく。ひとくくりにトランスだとかうっかりシスヘテロ男性だとか見なされるよりも一層自分ではない。こんな単語を見かけた。

ずっと、相手によって自分のあり方が勝手に変えられていく感じがする。こちらからは何も変えてないのに…? いや変えたわ、めっちゃ変わったじゃん。でも変わってないんだよ。

職場のエレベーターで男性社員の後頭部を見ながらぼーっと考えていた、この人と自分が同性とは思えないなあ、でも女性やってたときも女性のことを同性と思ってなかったなあ、そのときの感覚と差はないかも。でも傍から見たら男性に同化してる今のほうが、女性に同化しきれてなかった昔より浮いてないはず。それぞれの性別に期待される姿からどれほど逸脱しているか。その期待される姿の幅は同じではない。

私は自意識過剰な自覚がある。言い訳させてほしい。他者の目にどう映るか、どう装ってどう振る舞えばどういう印象を与えるのか、意識せずにはいられないんだ。

・毎日、人と接したくない気持ちを新たにしている。出勤したくない。習い事の集まりにももう行かないと思う。本当に苦手だ。診察時にでも医者に伝えたら社交不安とか全般性不安とか言われそうだけど、病ではなく、そういうものとして付き合っていったほうが幸せな気がする。(ずっとこんなふうに緊張して自他の一挙手一投足にビクついていたらそれは疲れて当然だ、と、たった今、思った。)

・いつもの公園に犬がいっぱいいて喜んだのもつかの間、犬がたくさんいるところには人間もたくさんいる事実にぶち当たってしまい、しおれた。

・週末、床屋に行ったら隣の客が芸能人の性加害の話をしていた。その人はずっと楽しそうで、理容師も笑顔で相槌を打っていて、私はひたすらいやだった。その場に男性しかいないと思うからそういう態度なんだろうか。それともいつでもその調子で、笑いが取れる鉄板ネタだと思っているのだろうか。その後も良いことがない日だった。歩道に立ち尽くして一瞬泣いた。でも涙も出づらくてどうにもならない。ケンタッキーフライドチキンを買って帰った。パンとポテトサラダとレタスを買い足して腹いっぱい食べた。

・献立を立てるのに慣れてきた。家にある食材の把握と、食事以外の時間に食事について考えることが重要だとわかった。常に食事に脳のリソースを割かれているようで楽しくはない。でもおいしくきれいにできると嬉しい。マイブームは根菜スライスを電子レンジで乾かして作るチップス。サツマイモとジャガイモがよい。

・犬が愛しい。馬も好き。犬になりたいけど馬にはなりたいと思わないのはなんでだろう。そういうことばかり考えていたら、近所の商店街で馬の写真を見て「あ、いぬ」と口走ってしまった。犬=馬=好ましいものの同義語だと思う。

ヤマガラを覚えた。鳥類図鑑がほしい。

日記(過去の捏造など)

・きょう人と話しているときに、ちょっとミスった。やったことのあるバイトの服装規定ってどんなのがあった? というテーマだった。なんの気なく「自分のバイトではスカートとかアクセサリーはだめでしたね」的なことを答えてから、それって男性としてバイトしてたらあんまり出ない内容だ…と気づいた。ただ、勉強中の手話でしゃべっていたので表現するのにいっぱいいっぱいで、そこまで頭が回らなかった。

先日は職場で過去を捏造した。雑談で「合唱コンの練習は男子と女子でやる気がちがった」「はりきった女子に、ちょっと男子!ちゃんとやって!って言われるよね」的な、どうでもいい、業務の息抜きのおしゃべりだった。私はかつて男子学生だった人間として扱われて、少しむずむずした。自分でないものにチューニングする点では、女性をよそおう感覚と共通してはいる。「永遠にトランスジェンダー」ってこういうことかな。

・自分が身につけてきたふるまいは「女性的」で、それを手放したほうがよさそうな場面がある。ずっと女性たちとの距離が近く、過剰適応の結果なのか知らないが私のコミュニケーション方法はかなり「女性的」だ。話題の選定とか、気遣いのやり方とか、しぐさとかいろいろ。でも男性とみなされたとき、相手の心の開き方が全く違う。私自身は変わっていないつもりでいるけど傍目にはもうだいたい男性なのだった。相手を害したくないから気をつけたい。では男性同士のコミュニケーションは? こちらは学習機会が少なくて苦戦している。積極的に(シスヘテロ)男性に擬態しようとも思わないが、極力、無害な存在になりたい。上書きの難しさがある。

・セクハラされていない。会話で求められているリアクションが違う。語弊があるけど、今そう感じるので書いておく。自分が普段いるコミュニティとも関係していると思うけど。クソな実験か?

・低い声が出るときの喉の振動が新鮮で楽しい。

・友人から連絡があり、急遽、先週会った別の友人と3人で会うことになった。その人とは数年越しに会う。名前を変えたことは伝えてあるが少し不安。

・右下の親知らずが生えてきてしまった。前に歯医者で「根っこが神経に触れているから大病院で抜歯しろ」と言われていた。保険証の切り替えが済んでから抜こうと思っていたのに、間に合わないかもしれない。いやだぁ。保険証というのは、戸籍の性別を変更するから保険証も新しくなるという意味です。

・家事の合間に「ブラッシュアップライフ」と「ロシアン・ドール:謎のタイムループ」を雑に観ている。両方30代女性のタイムループものだ。30代女性主人公といえば、2016年版「ゴーストバスターズ」を再生したら、えっ、こんなだっけ…?って悪い意味で引いてしまって途中でやめた。当時、池袋新文芸坐で観たときは割と楽しんだ記憶がある。感覚のアップデートだと思いたい。

・夜まで仕事で、終了後も気分が落ち着かない。近所の公園のベンチでぼーっとした。また公園。最近改築されて、地面は全面弾力のあるラバー素材で、チャイルドシートみたいな作りのブランコがある。植物は生えていない。

日記(散歩、最近読んでいる本など)

・今日は昼休みが長めに取れたので、職場近くの公園のベンチで昼食を食べた。風が強く、コンビニであたためてもらった豚汁の粗熱がとれる。巻き上げられた砂埃が降り掛かって黒コショウみたいな見た目だわ、と思いながら食べた。上空で1羽のカラスが同じくらいの体長の真っ白な鳥をしつこく追い回していた。仕事終わりにも同じ公園に寄って、ツグミハクセキレイキジバトとドバトを見比べた。人が通らない場所で微生物が分解した落ち葉が葉脈のレースを作っていた。枝から離れて時間を経た葉の質感は、岩絵の具のそれだと思う。胡粉の感じがする。芽吹きは透明水彩っぽい。

・先日、15年来の友人と飲みに行った。飲酒のペースと真面目さと不真面目さの塩梅が近い。年に1〜2回会って、自分が過去から連続した人間であることを確認する。

・五月あかり、周司あきら『埋没した世界 トランスジェンダーふたりの往復書簡』を読み始めた。今までになったことのない感情になっている。読み終えたらちゃんと感想を書きたいけど、数行読む間にあれもこれも頭に思い浮かんで、その全てを取りこぼさずに表出するのが難しい。とにかくお二人に、書いてくれてありがとうと伝えたい。

www.akashi.co.jp

刊行されてすぐに買ったまま読み進められずにいた周司あきら『トランス男性によるトランスジェンダー男性学』も開いてみたら、読めた。今の私は読めるようになっていた。これは、書籍を手にしたあとに自分が「なりゆき上」男性として扱われるようになっていったことと、絶対に、関係がある。

www.otsukishoten.co.jp

・「トランス35歳寿命説」を当然だと思ってたから、30代半ばになる自分(たち)がいま生きていてしかも未来が存在するらしいことに呆然とする。するよね、という話を人とした。

・精神の状態はあまりよくない。自分でもびっくりするくらい、些事から何から全てに緊張しつづけて疲弊している。公園をひとりで散歩すると気が休まるから、機会を増やそうと思う。

 

 

日記(職場、親族、言語、焦燥)

・この秋は、いい仕事に関わることができて嬉しかった。リスペクトフルな現場だった。スケジュールだけがひどかった。

・親戚に会った。戸惑ってはいたけど、否定的なことは言われなかったのでほっとした。おでんを食べて日本酒を飲んだ。

・仕事用メールにフルネームの署名を設定した。業務上、特に問題なかったので、今まで名字だけ書いていた。社会人失格だと思われるのと、会ったこともない他人から女性だとみなされること、どっちを取るかといったら迷わず前者だった。前の職場はまあまあカッチリしたビジネスメールスタイルだったけど、自分がどういう署名を付けていたのか思い出せない。

・たまに自分を指して「あの男性は」「いや彼女は女性だよ」みたいなやりとりが発生する。以前からの知り合いで、私からトランジションについて伝えていない人が善意で「訂正」してくれる。トランスあるあるだと思う。ややこしさが増すのは、その場での使用言語が手話のとき。日本手話は三人称でハッキリ男女の区別がある。ニュートラルな表現も考えられてはいるけど、日常に浸透しきっているとは言い難い。狭いコミュニティだし、女性だと思われたくないから早く訂正したいけど、私の手話力では自力で訂正して回るのは不可能なので、急ぎ協力者を見つけなければいけない。

・主治医が精神の薬の処方量を、成人男性の基準値で決めていた。一応ホルモン関係の事情は伝えてはいる。「体重なんかにもよりますが」と言っていた。そういうもんなんだ。

・言語について考えている。言語間の権力関係、言語とアイデンティティ、世代・コミュニティ間の伝達とか。きっかけが複数ある。社会言語学。とっちらかっている。日本手話と英語の勉強は続けている。

パレスチナで起きているジェノサイドについて、調べたり、プロテストを遠巻きに見たり、少しだけ仕事的に関わったりして、あとは? 友人たちのことを思って胃の底が波打つ。ずっと見ていなかったfacebookにログインしてしまう。

・食べるもの、特に栄養価への固執が強くなっている。会食恐怖? 出勤の日は健康的な手作り弁当を持参して、休憩コーナーの特等席、他人が視界に入らない窓際で食べる。他にも席はあるけど、近くに人がいると食べられないから、窓際が空くまで待つ。当然休憩時間は短くなってイライラする。料理の腕は随分上達した。太り方が内臓脂肪型になっている。

・自分は何をしているんだろう、何かしなければいけないという焦燥感と、結局何もできてない虚無感を交互に感じてただ時間が過ぎる。誰かと話をしたいけど誰とも会いたくない。私ごときに時間を費やさせるなんて申し訳ない。社交性は底をついたが体力がついたので、よく知らない人との上っ面の会話はむしろスムーズにできる。あー、学生時代にそれを続けていたらパンクしたんだった。でも会いたい人たちもいる。会いたいです。

よく耐えたし消えなかった

ずっと考えていた「私は女性から男性にトランスしたいわけじゃない、それなのに私がやっていることは男性になることでしかない」という葛藤は、胸オペから1年、改名から約10ヶ月、ホルモン注射開始から約9ヶ月経過した今、少し変化した。改名後に職場で部署異動があって、新しい人間関係では昔の名前を知る人はいない。前から変わらず関わりのある少数の人たちには様子を見て伝えたり、そうしなかったり。ネックだった親とは物理的な距離ができた。そうしてラッキーと特権を積み重ねて、日常の多くの時間を男性として暮らすことに徐々に慣れてきて、ストレスが大幅に減ったと実感する。すればするほど、以前の生活や身体やそこから生まれる全てのことが自分にとってどんなに辛かったのかと唖然とする。自分の頭で、これくらい…と見積もっていたよりも、かなり辛かったみたい。よく耐えたな。自分を見つめる力の弱さ。目を背け続けることだけは得意だった。

でも、その上で「いつかわからなくなってしまうんじゃないか」と不安だったバイナリーではない自己認識は、全然、ちっとも消えなかった。女性と見なされることの苦痛を忘れたわけじゃない。むしろ、こうして日々の中ですり減りづらくなってようやく、ある意味で落ち着いて、やっぱり私は男性にも女性にも帰属意識が全くないな、と確認する。

「私は女じゃない、娘でいられない、でも男になりたいわけじゃない、生きられる場所がない」って、目が腫れて声が枯れるくらい泣いていたこと。結局、最初から、自分のことよくわかってたんじゃん。あと、こんなんじゃ生きられないって思っても、死なない限りは生きてるよ。私は先のことを考えるのが苦手だから一か八か進んでみるしかなかったけど、ひとまず私が選んだ道は、自分を生かすルートだったみたい。

髪型の話

仕事柄そこまで制約がないので、髪型を変えがちです。変わりすぎて、年に数回会うかどうかの人だとマジで待ち合わせで認識されない。

ここ2〜3年の変遷は、ショートカット→ツーブロックショート→パーマ→刈り上げマンバン→ベリーショート→伸びてミディアムレングス。色は黒→金→ネイビーブルー→アッシュ→黒→グレージュ→今は赤みの茶色、襟足だけ刈り上げたら黒とツートン状態になった。

派手な色も好き。仕事で会った人が毎日オフィスでキャップをかぶってて、ニューエラ似合うなぁいいなぁっていうかそういうのもアリなんだこの会社…と思ってたら、先日初めて脱帽姿を見た。ほぼ白、うっすら紫で、関係ないのにテンション上がってしまった。もともとホワイトブリーチしてたのがムラサキシャンプーを放置しすぎて色がついちゃったとのこと。わかる〜、あれ結構色入りますよね。

私もムラシャンにはかなりお世話になった。ちょうど1年前の胸オペ入院前に、アゴくらいまで伸ばしていた地毛を短く切った。術後にドライヤーやら何やらのために腕を上げたくなかったから。耳から下は刈り上げていたとはいえ自分史上かなり長い黒髪は、気に入っていたからただ切るだけじゃ癪で、ダブルブリーチのド金髪にして入院した。シャワー室でムラシャンした患者はそういないと思う。のんきすぎる。汚れないようにきちんと流しましたんでどうかひとつ。病院関係者には絶対「あの金髪」って思われてた。

体感としては”移行”前ではマンバンのときが一番他人に男性として認識される度合いが高かった。今思えばそのことでかなり精神が安定したし、「これなら生きられるかもしれない」とジェンダークリニック通いを後押ししたという意味で、髪型は少なからず自分の”移行”の一部だった。ちょっと変(?)な髪型ってだけで、一般的に言う短髪 or 長髪と同じ役割を果たしていた。髪型の影響って想像より大きかったみたいだ。いろいろと考えてしまう。

社会人としてドレスコードが…とか年甲斐もなく…とか言われてもない声が聞こえた気がしても、私いま自分の人生始めたところなんで〜ってしらを切っていこうと思います。次はどうしようかな。

漫画「ともだち」

友人が企画してくれた「ノンバイナリーがわからないZINE」のために描いた漫画を、ここにもUPしておきます。3ページ。一応、右上から読む体裁です。

 

白黒で描かれた漫画の1ページ目。画像上部に縦書きでタイトルと作者名「ともだち きつね」。 居酒屋で2人の人物が酒を飲んでいる。向かって右の人は坊主頭にあごひげ、白いTシャツ。左手に焼酎グラス、右手に持ったメニューを見ている。向かって左の人はマッシュヘアに黒いジャケット。左手で持ったビールジョッキに口をつけている。2人の前のテーブルには、おしぼりや取り皿、歪に割れた割り箸、タバコなどが置かれている。

白黒で描かれた漫画の2ページ目。3段に分かれている  上段:テーブルを俯瞰している。テーブルを囲んで3人の人物がいるらしい。メニューを手渡す右手と受け取る右手、だし巻き卵を取り分ける両手が見えている。醤油差しや灰皿もある。 中段右のコマ:3人めの人物がジョッキでビールを飲んでいるバストショット。黒いタートルネックに明るい短髪のツーブロック。 中段左のコマ:談笑する坊主頭とマッシュヘアの背中越しに、ツーブロの人物が真顔で2人を眺めているのが見える。背後の壁には水着の女性のビールのポスターが貼られている。下段:手前に大きく坊主頭とマッシュの肩と横顔の一部。2人は白っぽくぼやけている。奥のツーブロの人物は急に遠ざかったように小さく見え、心細そうに視線を落としている。3人の間のテーブルや背景の居酒屋は消え、白い空間が広がっている。

白黒で描かれた漫画の3ページ目。2段に分かれている。  上段右のコマ:黒く塗りつぶされたコマに白い文字で「ごちそうさまでーす」「ありがとうございましたー」。  上段左のコマ:ネオンが光る夜の繁華街らしき街を背景に、マスクをつけ上着を着た坊主頭とマッシュヘアの2人が穏やかな表情でこちらを振り返っている。  下段:斜め上から俯瞰した絵。白い空間に冬服の人々が歩いている。中央に、先に行った2人を追いかけるツーブロックの人物と、立ち止まって待つ2人がいる。3人は黒い線でハッキリと、その他の人物は薄いグレーで描かれている。画像左下に「Twitter @FoxtheQueer」の文字がある。



 

 

以下、紙幅や力量(主にこっち)の関係で描き切れなかったことを、あとがきのようなメモのようなつもりで残しておきます。

・登場人物全員のジェンダーを明示するのはやめました。どう見えたとしても、本来、人がシスかトランスか、ノンバイナリーなのか、外から見てわかるものではない。本人が自分でわかっているとも限らない。

ジェンダーをジャッジする判断材料にされがちな声が聞こえないのは、漫画の利点ですね。セリフをなくしたのも、判断のつかなさを強化したいという理由がありました。

・とはいえ結局、この世のほとんどの人がバイナリーな人生に疑問を抱かず生きてるんだよな…という気持ちで、最後のコマはたくさんの人の引きの俯瞰です。ZINEの共通テーマ「ノンバイナリーがわからない」に加えて「バイナリーもわからない」です。わからないままこの先も生きていくんだと思います。

・私は居酒屋のだし巻き卵が好きです。

 

 

あと、漫画の内容とは関係なく、alt属性(代替テキスト)について。

好きなイラストを描く人がTwitterに載せる絵にも漫画にも丁寧にaltをつけているのを見て、自分でも試してみたり、こちらのサイト(alt属性の良い事例(つけ方・書き方)|情報バリアフリーポータルサイト )を読んだり…。でも漫画やイラストのaltって悩ましい。絵画鑑賞でやるディスクリプション(メタディスクリプションではなくて美術研究のほう)が参考になる気がするが、どうなんでしょう。

アクセシビリティ的な文脈ではないかもしれないけど、『目の見えない白鳥さんとアートを見にいく』が人気ですね。読んでみようかな。