よく耐えたし消えなかった

ずっと考えていた「私は女性から男性にトランスしたいわけじゃない、それなのに私がやっていることは男性になることでしかない」という葛藤は、胸オペから1年、改名から約10ヶ月、ホルモン注射開始から約9ヶ月経過した今、少し変化した。改名後に職場で部署異動があって、新しい人間関係では昔の名前を知る人はいない。前から変わらず関わりのある少数の人たちには様子を見て伝えたり、そうしなかったり。ネックだった親とは物理的な距離ができた。そうしてラッキーと特権を積み重ねて、日常の多くの時間を男性として暮らすことに徐々に慣れてきて、ストレスが大幅に減ったと実感する。すればするほど、以前の生活や身体やそこから生まれる全てのことが自分にとってどんなに辛かったのかと唖然とする。自分の頭で、これくらい…と見積もっていたよりも、かなり辛かったみたい。よく耐えたな。自分を見つめる力の弱さ。目を背け続けることだけは得意だった。

でも、その上で「いつかわからなくなってしまうんじゃないか」と不安だったバイナリーではない自己認識は、全然、ちっとも消えなかった。女性と見なされることの苦痛を忘れたわけじゃない。むしろ、こうして日々の中ですり減りづらくなってようやく、ある意味で落ち着いて、やっぱり私は男性にも女性にも帰属意識が全くないな、と確認する。

「私は女じゃない、娘でいられない、でも男になりたいわけじゃない、生きられる場所がない」って、目が腫れて声が枯れるくらい泣いていたこと。結局、最初から、自分のことよくわかってたんじゃん。あと、こんなんじゃ生きられないって思っても、死なない限りは生きてるよ。私は先のことを考えるのが苦手だから一か八か進んでみるしかなかったけど、ひとまず私が選んだ道は、自分を生かすルートだったみたい。