病院めぐりした日記

夜、外を歩いていたら、突然、左目が見えにくくなった。

はじめは車のヘッドライトを見てしまったと思った。よくあるやつ。

だけど時間が経っても治らない。視野の中心付近から上部にかけてどんどん広がっていくキラキラグニャグニャを前にして、ああこれライトじゃないと確信して最初に思ったのは、絵が描けなくなったら悲しいな、ってことだった。

その日は9月のあたまに「毎日描く」と決めてからちょうど1ヶ月目で、家を出る直前まで描いていた。

家に帰って1時間と少ししたらキラキラは消えた。不安。

 

翌朝、近所の眼科に行った。検査のために散瞳剤を点された。瞳孔を収縮させないようにする目薬。薬の作用で瞳孔が暗闇の猫のように開ききって、黒々とした円は何にも焦点を結ばない。丸。私の中に洞穴があった。

洞穴を覗き込んだ眼科の医師は「網膜は薄くはなってるけどまだ剥がれてない」という気になる言葉をこぼしつつ、目に異常はなしと言って、通院先の精神科に「要精査」と一筆書いて渡してくれた。

お昼になると穴は閉じた。人間に戻ってしまった、と思った。

 

更に翌日、予約を前倒して精神科に行った。主治医によれば、今の薬の副作用に閃輝暗点(センキアンテン、というそうだ)はだいぶ珍しいらしい。ようは薬のせいじゃないと。「精査って書いてあるけどまぁ…疲れてます?また起きるようだったらすぐ連絡して。他におかしいことがあったら救急車呼んでいいから」と言われて、いつもどおり処方されて帰宅。

とりあえずだいたいストレスってことになる。ストレス耐性が弱いことに定評のある私。知らんけど。

 

絵は、目の洞穴を見てから描く気が起きない。ノートを開いてペンを握って、頭に浮かぶのは車に轢かれたネズミみたいなぐるぐるだけで、ノートを閉じる。

おい、見えていても描けないじゃないか。あのキラキラと一緒に何か出てったんじゃないか。

またキラキラが来たら描けるんじゃないかしら。来てほしくないけど。

病院めぐりってだるい。

 

今この瞬間は、バリバリしたものを噛み砕きたい。固い物体と歯がぶつかる感覚、微細に砕かれた物体を飲み下す感覚が恋しい。口中めいっぱいの破片。All I need is POTECHI.