言葉が逃げていく

Q 私は私をきちんと語ろうとしない。こんなに自分自分自分な人間なのに。

A その通りだと思う。

 

Q 何が私を語りから遠ざけているのか。

A 否定される恐怖。他人から「こんな変なトランスがいる」と言われることが怖い。「そんなのはトランスじゃない」と言われることが怖い。「医療を使うなんて、そんなのはジェンダークィア/ノンバイナリー/その他その他…じゃない」と言われることが怖い。私というひとつの状態に対して、てんでバラバラのことを言われるのが嫌だ。一方で「ありのままのあなたでいい」などと妙ちきりんに励まされるのも嫌だ。

私以外、口を出していい存在はいない。

 

Q 自分を具体的に語ることで自分に矛先が向くのが怖いのか。

A ……そう。「正くない」トランスの自分を語ることは怖いことだ。

 

Q では「正しい」トランスとは何だと思っているのか。

A 自分は男である、女であるという帰属意識がある状態。ゴールがあってトランジションすること。

 

Q この世に二元論に当てはまらない人間はたくさんいる。

A わかっている。この世の全員が、自分が男か女かわかってるだなんてすごく馬鹿げた考えだし、間違っている。でも自分のこととなると急に、「お前に居場所はない、お前は存在してはいけない、いっそ存在しない、つまりお前の自己認識は嘘、ただ女でいるのが嫌な女なだけなんだ」とまくし立てる。

 

Q 誰が?

A 私自身が。

 

Q 自分を女だと思うことで、他人も否定していることに気づかないのか?

A わかっている。でも思うことをやめられない。

 

Q お前は最初に、自分を語ることから遠ざけているのは「否定される恐怖」だと答えたが、否定しているのは自分自身ではないのか?

A ……

 

Q それに、お前が恐れているつもりの「他人からの否定」は、お前が自分を説明しないから起こるものもあるんじゃないか?

A ……

 

Q 黙るな。説明しろ。

A それができたらこんなこと考えていない。

 

Q 前も聞いた。考えろ。

A 今考えてる。

 

Q これ以上、居場所のなさを言い訳にして自分と向き合うのを放棄するな。

A だから今これを書いてる。

 

Q いつまで堂々巡りをしているつもりだ。逃げるな。お前は何者だ?

 

 

 

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